不妊クリニックの待合にて

 

不妊クリニックの待合。

パステルのインテリア。退屈なオルゴールのBGM。いつも溢れんばかりの患者さん。時には椅子に座れないことも、履き替えるスリッパすら足らないこともある。

 

男性は…1~2割くらいか。やたらとせわしなく奥さんとしゃべる人、不自然に平静を装う人。不機嫌そうな人。緊張しているときこそ、そんな風にしたがる。男ってそういうもんだ。ボクもそうだ。

 

対照的に女の人は…。みんな凛として静かに時間をつぶしている。雑誌を読んだり、スマホを見たり、ただ静かに目を閉じていたり。

でも多分、それぞれに違う想いを抱えてここに来ている。

 

もしかすると

今日が初めての受診の人や

なんとか仕事を片付けてヘトヘトな人や

旦那と大ゲンカして家を出てきた人も

いるのかもしれない

 

中には

満足のいく検査結果が出た人や

はじめての妊娠反応が出た人や

今日がついに

クリニック卒業の人もいるのかな

 

でもきっと

またダメだったかと落ち込んでいる人も

悪い検査結果を聞いてしまった人も

せっかくやってきてくれた子が

今日もう生きていないことを

知ってしまった人もいるんだろう

 

 

それでもボクは不妊クリニックの待合で泣いたり笑ったりする人を見たことがない。うれしくても悲しくても、ここではそれを表に出さないことがマナーになっている。ごく自然に。

 

多分それはみんなが、ここにいるつらさを知っているからだ。

ここにいる心細さ、やるせなさを知っているからだ。

 

どんなに自分がうれしくても、ここには胸が張り裂けそうなくらい悲しい思いをしている人がいるかもしれない。

どんなに自分が悲しくても、ここには長年の苦労がやっと報われたよろこびに奮えている人がいるかもしれない。

 

だからここではそれを見せちゃいけない。うれしくても、悲しくても。

 

そして多分クリニックを出て、帰りの車の中で、あったかいお風呂で、やわらかいベッドで一人になったとき、それぞれの想いをまた噛みしめて、やっと笑ったり泣いたりするんだろうな。

 

 

今日この日の状況はそれぞれ違っても、ここにボクたちは同じ目的で集まってきている。

だから目を合わさなくても、言葉を交わさなくても、みんな同じやさしい気持ちでつながってる気がする。

 

「お互い、がんばろうね」

 

静かに張り詰めた待合室が少しも居心地悪くないのは

そんなやさしさのせいかなとボクは思うのです。

 

ここにいるみんなが

どうか最後は

笑ってここを

卒業できますように

 

 

 

次回は不妊治療記「26.胎嚢確認」です