傾聴

 

職種も経歴も違うけど、その先輩のことは大好きだった。ココのことがあった時も、その人は本気で泣いてくれた。いずれはその先輩みたいな心の温かいオジさんになりたい、とずっと思っていた。

 

だからこそその先輩から、勤めている会社が倒産してしまった、でも子供が大学に入ったばかりで、今とても大変な状況なんだと聞かされた時は、どうすればいいのか本当にわからなかった。

 

ボクだって辛い経験をしたから、辛い話をどういう風に聞いて欲しいかはよくわかる。下手なアドバイスや慰めなんかなくていい。かける言葉が見つからないなら、何も言わなくていい。共感を示しながら、ただウンウンと聞いてくれるだけでいい。

 

これは「傾聴」と言われる対話術だ。傾聴には相手の気持ちを鎮め、考えを整理させ、気持ちを前向きにさせる効果があることは心理学的によく知られている。その時そうすべきだということは、よくわかっていた。

 

それでもボクは先輩に、何か言ってあげたほうがいいんじゃないか、何か言ってくれると期待されているんじゃないかと思って、一生懸命言葉を探した。ただ聞いているだけでいいと知りながら、それ以上を求めてしまったのは、たぶんボクがその先輩を大好きだったからだ。大好きで、なんとか(出来るだけ大きな)力になりたかったからだ。

 

でも結局、何も言葉は見つからなくて、ボクはただ頷いているだけだった。あるいはそれが正解だったのかもしれない。でも何かかけるべき言葉があったのではという思いが、今も消えない。

 

ただ聞いているだけでいい。簡単なことに思える。でもそれを実践するのは、実はとても難しいことだと感じた。相手のことが大好きであればこそ、なおさらに。

 

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