03.突然の卒業

 

妊娠判定後の毎週の診察。それはいつも陸上のハードル競技を思わせました。

一つ一つのハードルを飛び越えることは決して難しくない。でもそれを最後まで、一つのミスもなく飛び続けなければならない。もし途中でつまづいて転んでしまったら…一巻の終わり。

 

再来週のクリニック卒業まで、残すハードルは後二つ。

 

当然まだ胎動なんかないし、家庭用の心音計じゃ心音も聞こえない。妊娠痛だなんだっていっても、そんなの個人差の大きいことだから大してあてにならない。赤ちゃんの生存確認は結局クリニックでの内診結果がすべてだ。だから内診中の奥さんを待っている時間は…自分の生存を危ぶむほどドキドキしている。

 

8週目の診察。内診室から出てきた奥さん。他の患者さんの前だから表情は変えてないけど、目には明るい光。

 

「順調だって」

 

うん。よかった。これでハードルはいよいよあと一つ。来週の診察で卒業だ。

 

そして診察室。

 

「順調ですね。先週受けてもらった採血の結果も全く問題ないです」

 

うんうん。

 

「転院先の病院への紹介状は書いておきましたから、今日持って帰ってくださいね」

 

ありがとうございます。

 

「もう次からのお薬は、そちらの病院でもらってください」

 

…はい。

 

「うんうん。や~よかった。またここまで来ましたね」

 

…ん?

 

「次こそは!ですね」

 

…あれ?なんだ、この “今日で終わりです” 感??

 

「あの…先生、もしかしてボクたち今日で卒業ですか?」

 

「えっ!そうですよ!?」

 

「え!先生、この間は来週で卒業っておっしゃってました!」

 

「えっ、そうでしたっけ!? いやでも、もう採血も問題ないし…。まぁ、今日でご卒業ということで…」

 

おおおおお。そんなことあるのか。このクリニックでもう一つ飛び越えるつもりでいたハードル。でもその前にあっさりとゴールテープは切れてしまった。

 

もちろん最後の感謝の言葉も、お別れの言葉も何も用意していなかったボクたちは、結局なんだか歯切れの悪いお礼しか言えずにクリニックを出ました。感動のフィナーレとは程遠い、なんともふにゃっとした卒業の日でした。

 

 

 

次回は虹のこども「04.てのひらを合わせて」です

 

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