流産の日のこと

 

不妊治療記 「27.流産」 ではあまり触れていなかった、この時のボクたちと先生との診察室でのやりとりについてもう少し詳しく書きたいと思います。ボクの、先生に対する信頼がとても深くなったやりとりです。

 

 

内診室から出てきた奥さん。内診中にすでに結果は聞かされていたようで、ボクを見て静かに首を振りました。やっぱりダメだったんだな、とわかりました。

 

そしてすぐに診察室に呼ばれました。先生はとても残念そうな表情で

 

「残念ですが、胎嚢はきれいに無くなっています。完全流産…ですね。この時期にこれだけ急激に流産が進行することはとても珍しいことです…」

「体外受精は自然妊娠に比べて流産率が高いとされています。実は今日もここ村さんで4人目で…。本当に多いんです」

「こういった早期の流産はほとんどが胎児の遺伝子異常によるものだとされています。つまり母体側の問題ではなく…もともと正常に育つことができなかった子ということなのですが…」

「ほんとに…痛かったでしょう?」

 

ボクたちはただ黙って聞いていました。口を開くと、涙がこぼれそうになるせいでした。

 

長い沈黙。

 

少しだけ涙の波が引いたボクはようやく言葉が出てきました。

 

「今後、妻の方にも何か処置が必要でしょうか?」

 

その質問に先生はハッと我に返ったような表情をされました。そして奥さんの身体には問題なく掻爬(そうは)手術も必要ないこと、いくつか検査をして問題がなければ来月にでも移植を再開できることなどを説明してくれました。

 

この時、ボクの質問にハッとした先生の様子は、ほんの少しだけボクの気持ちを穏やかにしてくれました。

 

流産

それは患者にとっては耐え難い喪失や悲しみであり、ものすごく非日常的なこと。おそらくは一生忘れないほどつらいこと。

しかし先生や医療スタッフの方々にとっては…良くも悪くも見慣れた日常の風景だと思う。その日もボクたちの前に3人も流産の宣告をしている。いつもの仕事。ルーティンワークの一つ。

それでも先生はこの仕事を手早く処理しようとはせず、しっかりと時間をかけて説明をし、ボクたちが質問を切り出すまでじっと待っていてくれました。

そしてあのハッとした表情は、ただその時間を漫然とではなくボクたちと同じように悲しみ、残念がってくれている、ボクたちと同じ気持ちでいてくれると感じられました。うまく言えないけどなにかすごく、ありがたく思いました。

 

医師やスタッフさんにとっては日常の何気ない行動、言葉、表情。患者にはそれがとても気になったり、とても傷ついたりすることがある。でも逆にそれがすごく励みになったり、信頼を得る要素にもなる。

 

不妊治療はとても難しい。どんな名医が検査しても、治療しても、それでもうまくいく保証なんて何もない。それでも何度も何度も挑戦しなければいけない。だからこそ本当に信頼のおける医師や病院に出会えることはとても大切だと思う。

 

ボクたちは、ラッキーだったな。

 

 

 

次回は不妊治療記「38.再び…化学流産」です