ある日ボクは仕事の関係で、とある産婦人科の先生とお会いする機会がありました。その方は若い女医さんでボクたちが通っている病院の先生でもなかったので、わりと気楽にいろんなことをお話しできました。
そこでボクは主治医の先生にはちょっと聞きにくかった、あることを聞いてみました。
「先生、出生前診断ってどう思いますか?」
先生は少し考えてこうおっしゃいました。
「医師として、出生前診断を勧める理由はないですね」
なるほど、明快かつ合理的な答え。
出生前診断。
定義としては「胎児健康状態の評価を行う妊娠中に実施する一群の診断や検査(通常の超音波検査等も含む)のことを指し,検出される異常には胎児発育異常,胎児形態異常,ならびに遺伝性疾患などが含まれる*」とのこと。
かなり広い定義づけだけど、一般的にはダウン症とかトリソミー18とかの染色体異常を持った子かどうかを知りたいがために受ける検査と考える人が多いと思う。
羊水検査とか絨毛検査とかの危険な検査のイメージがあるけど、最近では無侵襲的出生前遺伝学的検査(non-invasive prenatal testing: NIPT)とかいって母体の血液検査だけである程度わかるらしい。費用は20万くらいするんだとか。高い!
日本産婦人科学会の見解としては「出生前に行われる遺伝学的検査および診断は,夫婦からの希望がある場合に実施する」とあり**、NIPTに関しては「医師は妊婦に対して安易に勧めるべきではない」***とまで言っている。
医師として勧める理由はない。いろんな問題があるし、染色体異常があるとわかっても医学的にはできることなんてないんだから。
多分、そういう意味なんだと思う。
医学的にはそんな検査は必要ない。でも患者は…
「染色体異常、確定者の97%が中絶」(日本経済新聞****)
その検査結果から重大な選択を迫られ、ほとんどの人が一つの決断に収束する。
いろんな考え方があると思う。
ボクたちも何度も話し合って、でも結局はっきりした結論は出せませんでした。
ただボクたちは、NIPTで陽性だとしても確定診断のためには羊水検査が必要なこと、羊水検査は1/200の流産の可能性があること*、今まで散々低い確率に当たってしまったボクたちには1/200はぜんぜん低い確率に思えないこと。結局それだけを考えて、出生前診断を受けないことに決めました。
でももしおなかの子に染色体異常があったらなんて考えたくない、というのが本音でした。決断を迫られるのが怖いとも思いました。
みなさんはどう思われますか?
*のちにこの時を振り返って思ったことを、よもやま話「イラスト」に書いています。よろしければ合わせてご覧ください。
**日本産婦人科学会「出生前に行われる遺伝学的検査および診断に関する見解」(H25)
***日本産婦人科学会倫理委員会「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関する指針」(2013)
****日本経済新聞2014/6/27「新出生前診断 染色体異常、確定者の97%が中絶 開始後1年間、病院グループ集計」 ただしこの数値の出典は明らかでない。
2016年の日 本 医 師 会 生 命 倫 理 懇 談 会「遺 伝 子 診 断・遺 伝 子 治 療 の 新 し い 展 開」では「96.0%が NIPT で陽性の結果が得られた後、NIPT 陽性の結果単独、または羊水染色体検査で得られた陽性の確定結果をもとに、妊娠中絶を選択した」とある。
「05.流産から1年」へつづく