11.陣痛

 

出産予定日、満月の陣痛。

病院に到着し、奥さんは車いすに乗って産婦人科病棟の「陣痛室」と書いた大部屋に案内されました。

 

奥さんのおなかにはすぐに分娩監視装置(EFM)のセンサーベルトが巻かれました。機械に表示されるのはココの心拍数らしき数値と、もう一つの数値。なんだろうと思ってみていると、どうも奥さんの痛がる様子に合わせて数値が変化していく。

 

ははーん、陣痛の強さを感知してるんだな。きっと圧力センサーでおなかの張りとかをみてるんだ。ふんふん、なるほど。

 理系男子の悲しい性。こんなときでもそんなのを興味深く観察してしまうのです。きっと奥さんイラっとしてただろうな(;^ω^)。

 

 

当直の先生による内診では、子宮口がまだあまり開いていないのでもう少し時間がかかりそうとのこと。

 

寄せては返す陣痛の波。ボクはそれに合わせて奥さんの腰をさすったり、助産師さんに教えてもらった痛みがましになるポイントを一生懸命押したりしていました。

 

がんばれ、がんばれ。

 

そうこうしてるうちにとなりの分娩室から、他の人の分娩中らしき大きな声が聞こえてきました。

 

「ぎやぁゃるぁぁぇ~~あ!!」

 

…。

 

おそらく断末魔の叫びというのはああいうのを言うんじゃなかろうか。奥さんの顔が青ざめてひきつる。

 

あんなにも痛いのか・・・

 

分娩に立ち会うつもりのボクもさすがに怖い。でも一番怖いのは奥さんだ。とにかく少しでも楽になるように、ボクにできることをしていこう。一生懸命カラダをさすって。必要なものを買いに走って。

 

陣痛室に入ったのは午前0時過ぎ。痛みの波とともに時間が過ぎて、気が付けば夕方になっていました。奥さんもボクもさすがにかなり疲れてきていました。

夕方の内診では子宮口はだんだん開いては来ているが、まだ十分ではないとのこと。

とりあえず明日の朝までこのまま待ちましょうか、なんて当番の先生は簡単に言うけども、明日の朝ってあと16時間くらいあるじゃないか。まだそんなに続くのか…。

 

でも先生もまわりの看護師さんたちも焦ってる様子なんかまるでない。初めてだからわからないけど、出産ってそういうもんなんだな、きっと。

 

陣痛室の窓にはしっかりカーテンがされていて、部屋の中は常に薄暗い感じでした。時間の感覚はまるでなかった。夜中も陣痛の波は絶え間なく続き、ボクは奥さんをさすりながらなんどか寝落ちしそうになった。そばにいた助産師さんが、私が見てますから少し休んで、と言ってくれたけど、奥さんとココがこんなにがんばってるのにボクだけ眠れるわけなかった。

 

がんばれ、奥さん。

がんばれ、ココ。

あと少しだよ。

 

そして、ついに朝を迎えました。

 

 

朝の内診。その日の当番は若い女の先生。歳はボクたちと同じくらいか。でもしっかり、キビキビとした口調の信頼のおけそうな先生。

 

「子宮口、だいぶ開いてきましたね!あとは陣痛がもう少し強くなってくれれば、という感じです。今日は陣痛促進剤を使いましょう。促進剤は量を使いすぎると危険なので、少しずつ使っていきますね。後で同意書を持ってきますので、そちらに目を通してサインしておいてください」

 

今日中にはお産になりますからね、という先生の力強い微笑みにボクたちはすごく安心しました。

 

もうすぐだ。

もうすぐ、この辛さも終わる。

もうすぐ、今までの苦労が報われる。

 

やっとだ。

やっと…ココに会える。

 

ボクは同意書にサインをすませ、ベッドサイドでてきぱきと促進剤の準備をする助産師さんをみていました。奥さんは相変わらず辛そうだったけど、いよいよ終わりが見えてきたことにホッとした空気がながれていました。あぁホントにもうすぐなんだ。もうすぐココに会えるんだ。

 

 

 

そのときでした。

 

点滴の準備をしていた助産師さんがふと手を止め、分娩監視装置をみてポツリと言いました。

 

「あれ…?」

 

 



 

12.緊急帝王切開」につづく