14.先輩の妊娠

 

人工授精なんていかつい名前がついていても、やることはあっさりしたもの。

ホルモン剤の注射やなんかで排卵の調整をして、いよいよという日に採精(ボクはかならず病院で)。待合で数十分待ったら奥さんが呼ばれて内診室で受精。処置自体は普通の検査と大して変わらないほど短時間で終了します。

妊娠判定は渡された妊娠検査薬をつかって数日後に自宅で。検査薬は市販のスティック状のやつではなく、5cm各くらいの四角いプラスチック製のもの。プロ用だから感度が高かったりするのかな?朝一の尿をかけてはっきり線がでれば妊娠のサインなのは市販薬と同じ。

 

「いよいよ明日だね」

「うん…」

 

ソワソワしながら眠りにつく。

 

ねぼすけな二人がいつもより早く目が覚める。奥さんはいそいそとトイレへ。ボクもリビングでそれを待つ。検査薬を大事そうにもって出てくる奥さん。

 

判定窓には線はでてない。

 

もっと時間がかかるのかな?もうちょっと待ってみようか?

なんかうっすらと出てるような気がするけど…錯覚かもしれないけど…。

 

でももし一度でも検査薬での妊娠反応を経験した人ならわかるはず。

本当の陽性反応はおどろくほど早く、はっきりと現れます。

見間違うことなんか、まぎらわしいことなんかたぶん、ない。

 

「ボクの心眼でははっきり線がみえてるんだけどなぁ」

「私も~」

 

精一杯作り笑いして。たいしたことないよって自分たちに言い聞かせて。夜になったらはっきり見えてるんじゃないかなんてムダな期待をして。

 

ボクたちはあいかわらずそんなことを繰り返していきました。

 

 

そんなある日、仕事から帰ってきた奥さんは何か浮かない顔をしていました。

「どうした?職場で何かあった?」

「うん…先輩のAさん、妊娠したんだって」

 

Aさんの話は前々から聞いていました。ボクらより3つ上の38歳。おだやかでキレイで仕事のできる先輩。ようやくすばらしいパートナーと巡り会って、つい最近ご結婚されたばかり。そんなAさんに結婚してすぐに…

こどもができた。

 

もちろんすばらしいこと。おめでたい。40歳手前の出産、リスクもあるだろうけどがんばってほしい。応援したい。

 

でも…

 

なかなか結果が出ない不妊治療を繰り返す中で、「どうしてうまくいかないんだろう」と考えるのは当然のことだと思います。

ここから先はあくまでボクの推測ですが

うまくいかない理由のひとつはやはり年齢のためだろうと、奥さんは思っていたと思います。

このとき35歳。一般的にも妊娠率は下がる。流産などのリスクは上がる。ちょうどこのころ「卵子の老化」という現象も世間的に話題になっていました。

 

もう若くない、卵子の老化も始まっているのかも。なかなか妊娠しないのも仕方ないな。

 

そう思っていたのに、年上の先輩はいとも簡単に妊娠してしまったのです。

 

あの人は私より年上なのに…

卵子の老化だってもっとすすんでるはずなのに…

 

しかもこれからはつわりに苦しみ、日々おなかの大きくなっていく「妊婦さん」と毎日会わなければならないんだな。自分は妊娠できてない事実を、日々目の当たりにしなければならないんだな。

 

奥さんにとって、ボクにとって、不妊治療はますますつらいものになっていきました。

 

 

 

15.ここトト、奥さんに叱られる」へつづく