ココのいる病室で、ボクたちは主治医の先生からココの病理解剖させてほしいという申し入れをうけました。ココが亡くなった原因を調べたいとのことでした。
実は手術が終わってまだ奥さんが病室に戻ってくる前に、ボクはすでにこの申し入れを聞いていました。
でもボクは…
自分では決められなかった。
というより
イヤだった。
だって今更そんなことしても、どうせココは帰ってこないじゃないか。
それなら痛い思いなんかさせずに、傷なんかつけずに、キレイなままココを返してほしい。
そう思っていました。だからその時はとりあえず、奥さんと相談して決めたいと返事しました。
再び奥さんの前で先生から申し入れがあったとき、奥さんはやさしい表情で、ゆっくりとボクに言いました。
「ちゃんと調べてもらおうよ。どうしてこうなったのか、わからないままだとココも悔しいと思う。私たちに今できるだけのことをしてやろう」
ボクは
強い人だなと思いました。
母親になるってやっぱりすごいことなんだなと思いました。
ボクたちのためじゃない。
ココのために、検査を受けさせてやろう。
ボクたちは先生に、ココの病理解剖をお願いしました。
すぐにココをのせたベッドが病室から運び出されていきました。
ココの帰りを待つ間、いろんな人にこの日のことを連絡していきました。
連絡をうけた誰もが、いったい何を言えばいいのかわからないといった様子でした。ボクも、何を言ってほしいのかなんてまるでわかりませんでした。
ボクたちに用意された部屋は病室というよりなにか特別な処置室といった感じで、ドアが2重扉になっていたために部屋の外の音がほとんど聞こえないのがありがたかった。このときのボクたちに、廊下を歩く妊婦さんの声や、方々から聞こえてくる赤ちゃんの泣き声を聞いて過ごすなんて、できるわけなかったから。
そして数時間後、ココが検査から帰ってきました。
帰ってきたココはあたらしい真っ白なベビー服を着て、薄い黄色のニット帽を被っていました。それはとてもココに似合っていて、すごくかわいらしかった。
カラダには大きな傷がついていたのだろうけど、その時はまだとても見てやる気にはなりませんでした。
ごめんね、ほんとによくがんばったね、ココ。
ボクたちのいる病室はココには暖かすぎるので、ベビールームの涼しい場所で預かってもらうことになりました。ほかの赤ちゃんたちと同じようにベビールームにいさせてもらえることに、ありがたい気持ちでいっぱいでした。
奥さんは帝王切開後の傷の痛みもあってか、始終うつろな目をしてあまり話すこともありませんでした。ボクも疲れて、ボクのために病室に運び込まれた簡易ベッド(それは膝から下がまるまるはみ出してしまうほど小さなベッドだった)に横になりました。
そういえば陣痛が来た日、あの大きな満月の日の朝からずっと寝てないな。2日半か3日か。
いろんなことがありすぎて、時間の感覚はまるでない。長かったのか短かったのかも今はよくわからない。
ボクも奥さんも疲れ果てて、これが夢だったらいいのになんて思う間もなく、ねむりに落ちました。
「16.悔しい」へつづく