このころから奥さんはよく「ピックアップ障害」という言葉を口にするようになりました。
ピックアップ障害とは「卵管采の形が変形していたり、卵管が腹腔内に癒着して自由に動くことができず、卵子の取り込みがうまくできない状態」をいう*。つまりは排卵はちゃんとしているが子宮の中にちゃんと卵子が届けられていないわけで、そのときいくらsexしても人工授精しても精子が卵子と出会うことはない。ボクたちのような原因不明の不妊患者はこの障害がおこっている可能性が結構高いそうです(ちなみに二人目不妊の方にも多いそう)。
「私やっぱりピックアップ障害なのかなぁ」
奥さんがそういうたびにやんわり相槌をうちつつも、実はボクは内心
いらだっていました。
ピックアップ障害であるかないか、どんな検査をしてもそれを確かめるすべはない。
たとえば人工授精がうまくいったとしても、ピックアップ障害ではなかったとはいえない。その時にたまたまうまく卵子が取り込めただけかもしれない。やっぱりほかの時には取り込めていなかったのかもしれない。
たとえば人工授精がうまくいかなかったとして、ピックアップ障害だったとはいえない。なにかほかの要因があったのかもしれない。もう一回挑戦すればうまくいったのかもしれない。
「かもしれない」「かもしれない」あまりに不確定で不安定
そもそも不妊治療、というより妊娠自体が不確定なことだらけじゃないか。全く不妊の要素がない人だってsexするたびに妊娠するわけではない。ピックアップ障害の人が体外受精するたびに妊娠するわけではない。遺伝子だとかミトコンドリアだとか胎内環境だとか、おそらくは時の運だとか。
だから結局自分がピックアップ障害だとかなんとか、そんな不確定なことを考えるのはまったくナンセンスなことだとボクは思っていました。どうせ結論なんか出ないんだから。原因を考えるのは医者の仕事。その医者も原因はわからないと言っている。そしてボクたちは原因不明の不妊患者が受けるべき治療を粛々とうけている。
それでいいじゃないか。どうしてこれ以上むだに神経をすり減らす必要があるんだ?
加えて言えば、このころボクは奥さんが暇さえあればスマホで不妊に関する記事やブログを読み漁っているのもイヤでした。それを知ったところでどうなるわけでもない、ムダな知識を一生懸命取り込んでいるだけのように見えました。
度重なる通院
安くない治療費
職場への気遣い
氾濫する情報
あまりに多い不確定要素
そして大きな期待と、
最後に必ずやってくる落胆。
要するにボクたちはもうひどく疲れていました。ボクたちが最初に決めたエンドポイントはもうすぐそこまで来ていました。
*日本不妊カウンセリング学会「不妊症の専門用語解説集」
「17.不妊治療休みます」へつづく