翌朝、ボクは離れて暮らす姉に電話を掛けました。
2つ年上の姉も、実は3か月前に長女を出産したばかりだった。40手前の高齢出産ではあったけど、何とか無事に普通分娩で出産した。
ココとその子は、同じ年のいとこ同士きっと仲良くやっていただろう。
そしてボクたちも、お互いに頻繁に連絡を取り合って子育て相談なんかしあっていたんだろう。
洋服が大好きな姉のことだから、ユニクロの子供服が可愛いだとか、今季の無印のTシャツはどの柄を買っただとか、そんなことで盛り上がっていたのかもしれないな。
でも、それももうできなくなってしまった。
電話口で姉は泣きながら言いました。
「悔しい…ね」
いろんな感情が混ざりすぎてボクの頭の中は真っ白になっていて、それをどの言葉で表現するのが一番いいのかわからなかったけど、「悔しい」という言葉はこの時かなり的確な気がした。
悔しい。
ほんとにそうだな。
あと少しだった。
あとほんの少しだったんだ。
妊娠するまでにあんなに苦労して
妊娠してからだって不安に怯えながら過ごしていた。
毎日毎日、内出血で真っ黒になった奥さんのお尻に注射をうつのだって、ほんとにつらかった。
1日1日、
失敗しないように、
足を踏み外さないように、
息をひそめて、
他のことは全部後回しにして、
ココのことだけ考えてやってきたんだ。
臨月に入って
もうだいじょうぶだ、いざとなれば帝王切開で取り出してでも生きていけるんだからなんて、内心ホッとしていたんだ。
ココも奥さんもボクも
できることは全部やってきたんだ。
それなのに
ココは死んでしまった。
ぜんぶ
こわれてしまった。
あとほんの少しだったのに。
悔しい。
悔しい…
「17.お葬式の準備」へつづく