「ココちゃんを、お風呂に入れてあげませんか?」
そう提案してくれたのは担当の助産師さんでした。
ボクたちはまさかココをお風呂に入れてやれるなんて、沐浴をさせてやれるなんて思いもよらなかったので、そう提案してくれたのはすごく意外だったけど、とてもうれしくて是非とお願いしました。
助産師さんは病室にベビーバスを持ってきてくれました。中のお湯はちゃんと湯温計で40度に調整されていました。
そしてココを病室に連れてきてもらい、ココの服を脱がせてやりました。
ココの胸には絆創膏では隠し切れない大きな大きな傷があって、それはあまりにも痛々しかった。ボクは自分たちの決断が本当に正しかったのか自信がなくなりました*。
ごめんね。
ほんとにごめんね、ココ。
まだ手術後の傷が治りきっていない奥さんの代わりに、ボクがココに沐浴をさせてやりました。助産師さんに教えてもらいながらガーゼで髪や顔を拭いてやり、しっかり石鹸を泡立てて胸やお腹はやさしくマッサージするように、首を支えながらひっくり返して背中やお尻を洗ってやりました。
ココの背中はまだ産毛がたくさん生えていて毛むくじゃらだった。きっとこれがだんだん抜けていって、スベスベのキレイな肌になっていったんだろうな。
奥さんと助産師さんが「ココちゃん、ほんとに気持ちよさそうね」と言ってくれて、ボクもとてもうれしかった。
お風呂から上がったココをしっかり乾かしてやっているとき、助産師さんは、このままカンガルーケアをしてあげてはどうですかと言ってくれました。
上半身裸になった奥さんとぴったり肌をあわせて、ココは安心しきって眠っているように見えた。
ココと触れ合うことで奥さんの身体はまた自分が母親であることを思い出したのか、薬で止めたはずの母乳がまた出てきました。すごく不思議な光景で、涙が出た。
奥さんはやわらかくやさしく、ずっとココを撫でてやっていました。
裸ん坊で抱き合う奥さんとココの姿は、ボクにはとてもキレイで神聖なものに見えました。
それはボクの大切な家族のつながりで、ボクがこの先ずっと守るべき大切な宝物でした。
こうして、この日の沐浴とカンガルーケアは、ボクたちとココにとって大切な思い出になりました。
ボクたちは自分たちではこういう思い出を作ることを思いつきもしなかったし、思いついていたとしても言い出せなかったと思う。いつも忙しそうなスタッフさんたちに、亡くなった子をお風呂にいれてやりたいから用意してほしいとか、沐浴の仕方を教えてほしいなんて言えない。スタッフさんから提案してもらったからこそ、ボクたちは大切な思い出を残すことができた。ほんとうにありがたかった。
ボクたちに起こったことは本当につらくて悲しいことだったけど、周りの人に対して怒りや憎しみではなく、こうやって感謝の気持ちをもっていられたことは、その後のボクたちがココの死を受け入れていくための大きな手助けとなりました。
*「15.病理解剖」
「22.精神科」へつづく