朝を迎えました。もちろん(残念ながら)夜中にココが泣き出すことはありませんでした。
ボクが目を覚ますと、奥さんはもう起きて台所に立っていて、家じゅうに甘い匂いが立ち込めていました。
奥さんはココのためにクッキーを焼いていました。動物やココの名前のアルファベットを型抜きしたクッキー。ひとり旅立つココのためのおやつ。
その日はお葬式の前にいちど病院に戻って、看護師さんにお棺の準備を手伝ってもらうことになっていました。ボクたちは朝食をすませ、身支度を整えました。出発の時間が迫ってきても奥さんはクッキーを焼き続けていて、そろそろ時間だからとボクが止めようとすると、奥さんは、わかってる、といつもより少し強い口調で言いました。
うん、そうだな。奥さんの言うとおりだ。ココの最後の日に、少しくらいの遅刻がなんだ。こんな日に、何を遠慮することがあるんだ。
そしてボクたちは3人で写真を撮りました。三脚にカメラを立てて、大好きな我が家の、大好きなソファに座って。3人ともとても優しい顔で写っていました。その写真はボクたちの一生の宝物になりました。
約束の時間に少しだけ遅れて、ボクたちは病院に着きました。ココのためのお棺は病院が用意してくれていて、真っ白なベビードレスに着替えたココはキレイにその中に納まりました。ココの周りにたくさんのお花を飾り、奥さんの焼いてくれたクッキーを並べました。
ココのために買ってあったおもちゃは、少し迷って結局お棺には入れないことにしました。
ごめんね。ココのこといつでも思い出せるように、トトとママに残しておいてね。
そして最後に、薬で止める前に少しだけ搾乳しておいたというお乳の入った小さなシリンジを、ココの胸の上に置きました。ちょっとずつ飲むんだよなんて言っても、きっとココはお腹がすいたらすぐに全部飲み切ってしまうだろうな。だってココはまだ赤ちゃんだもの。ちょっとずつなんて、まだわからないもの。
でも大事に大事に、ココはそれを抱えているように見えました。
お棺のふたを閉めて、それを大きな綺麗な布で包んで、ボクたちは家族たちの待つお寺に向かいました。
真っ暗にしてごめんね、ココ。
さぁ、みんなに会いに行こう。
「25.さよならココ」につづく