27.流産

 

6週と3日、奥さんはダイチを流産しました。とても暑い夏の日のことでした。

 

5週目検診で胎嚢確認ができた数日後から奥さんはお腹のはりと痛み、すこしの出血を訴え、それは徐々に大きくなっていきました。急いでクリニックを受診しましたが、この時期にはあり得ることなので心配はいらないという。

しかし痛みはどんどん強くなり、奥さんは仕事にも行けない状態になりました。お腹の子に影響が出るので痛み止めは使えない。ただただ耐えるしかない。

温めると痛みが少しましになるようだったので、ボクはカイロや温熱シートを買い込みました。そして一生懸命奥さんのお腹や腰をさすりました。

 

ダイチ、まだ出てきちゃだめだよ

 

2人で祈り続けました。ボクが手を添えて温めるのが一番楽になると奥さんは言ってくれました。

 

 

そして5日後、仕事中のボクに奥さんからメールが来ました。

 

「病院いきたい。帰って来てほしい」

 

ボクは上司に頼んで仕事を早退しました。クリニックの午後の開院までにはまだ少し時間があったので、ボクは帰りに近くのショッピングセンターに寄って、お腹を温めるための腹巻を探しました。真夏に腹巻はなかなか見つからなくて、あちこち探してやっと見つけたものを買いました。

 

 

うちに帰ると、

静まり返った薄暗い部屋に一人、

奥さんが座っていました。

 

奥さんは泣きはらした顔で言いました。

 

「ごめん…出ちゃったみたい」

 

 

その日も仕事を休んで家で一人痛みに耐えていた奥さんは、ボクにメールを送った後、今までにない強い痛みを感じてトイレに駆け込んだそうです。

 

トイレに座ると

何かが出ていく感覚があった。

奥さんは必死にそれを受け止めたけど

ショックで

どうしていいのかわからなくて

慌ててクリニックに電話した。

 

そしてお腹の痛みは、

うそのように治まった。

 

それで奥さんは不思議と冷静になって

受け止めたものを包んで

しっかりお化粧をして

身支度を整えて

一人静かに

ボクの帰りを待っていました。

 

 

急いでボクたちはクリニックに向かいました。車中ボクは、大丈夫だよ、まだわかんないよ、と声を掛け続けたけど、もう大丈夫じゃないことはきっと奥さんが一番よくわかっていたはずでした。

 

 

ボクの帰りを待つ間、

奥さんは、どんなに心細かっただろう。

一人で痛みに耐えて。不安におびえて。

そして

ダイチを受け止めようとしたとき、

それを包んでいたとき、

どんなにどんなに辛かっただろう。

 

それなのにボクは

腹巻なんか探してつまらない道草をして

1秒でも早く帰ってやらないといけなかったのに。

仕事なんか休んで一日中お腹をさすっていれば、

もしかしたらダイチは助かったのかもしれないのに。

 

いったいボクは、

何をしているんだろう。

 

 

クリニックに着き内診室から出てきた奥さんは、ボクの方をみて、ただ黙って首をふりました。

 

「残念ですが、胎嚢はきれいに無くなっています。完全流産…ですね」

 

診察を終えて、駐車場の車に乗り込んではじめて、ボクたちは強く手を握り合って声を上げて泣きました。静かに張り詰めたクリニックの待合は、泣いてもいい場所ではないとボクたちは思っていました。

 

 

 

28.水子供養」へつづく 


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