「うん、しっかり妊娠反応でてますね!」
5回目の胚盤胞移植は見事陽性。やった!ココの弟妹が、奥さんのおなかにやって来てくれた。
その日から早速始まったヘパリン注射。さすがに1年もブランクがあると、ちょっと忘れてしまっている。
どうするんだっけ?なに用意するんだっけ?あ、そうだ!
ボクは自分のブログを読み返して、ヘパリン注射の手順を思い出していきました。ブログを書いたことがこんなところで役に立つとは。やっぱり記録しておくって大事*。
5週目で胎嚢確認。
6週目で心拍確認。
迎えた7週目。
「うん、順調ですね。いい感じに大きくなっています。このままいけば再来週(9週)でご卒業ですね」
卒業。そうか、またその日がやってくるんだな。どうか無事にやってきてほしい。
「さて、お産ですが…どうされますか?」
もちろんこれはどこの病院でお産をするかということだ。ココのことがあったあの病院で、またお産をするのかということだ。
きっとボクたちは思い出す。あの玄関で。あの待合で。あの診察室で。そしてあの病室で。ココのこと、あの死ぬほどつらくて、そして最高にしあわせだった数日間のこと。
つらくなることもあるかもしれない。それでもボクたちは、あの時精一杯やってくれた先生やスタッフさんたちには深く感謝していました。だからボクたちはまた、あの病院でお産したいと伝えました。
「わかりました。それではまた紹介状を書きましょう。前回の主治医の先生はもうお辞めになっているそうなので、別のベテランの先生宛に書いておきますね」
前回主治医だった先生は、早口で時々何言ってんだかわからないことはあったけど、大事な話はゆっくり目を見て話してくれたし、他のスタッフさんからの信頼も厚い先生だった。できることなら今回もお世話になりたいとボクたちは思っていた。
でも辞めちゃったのか。そっか、残念だな。
今度の先生の診察は何曜日だろう。お会計を待つ間、ボクたちはスマホで病院の外来担当表を探していました。そして見つけた担当表、早口の先生の診察枠を引き継いでいたのは、あの若い女の先生でした。ココが産まれたあの日の病棟当番で、急変したココと奥さんのもとに駆け付け、緊急帝王切開の決断をし、早口の先生と一緒にココを取り上げてくれたあの先生でした**。
周産期センターのある大きな病院だから、病棟を担当する医者だってたくさんいるだろう。あの日、あの先生が担当だったことは全くの偶然だったはずだ。その先生が、ボクたちが信頼する主治医の後を引き継いでいた。
「これも何かの縁だよね」
ボクたちは話し合い、そしてクリニックの先生に頼んで、紹介状の宛先を変えてもらいました。わざわざベテランから若い先生に変えて欲しいといったのには驚かれたけど、事情を話すとすぐ納得してもらえました。
ココが産まれて、亡くなって、ボクたちは人と人との「つながり」を意識することが前より多くなった。
家族。亡くなったお義父さん。友人たち。職場の上司。不妊クリニックの先生やカウンセラーの看護師さん。早口の先生。産院のスタッフさんたち。そしてあの女の先生も。
みんなボクたちに親切にしてくれた。ココのことを大切にしてくれた。
そんな「つながり」があって、今また奥さんのおなかにはボクたちの子どもがいる。たとえただの偶然でも、その「つながり」をどうか大切にしたいと、ボクたちは感じていました。
*不妊治療記第40話「ヘパリン注射のコツ」
**天使のはなし第11話「陣痛」に登場します
「03.突然の卒業」へつづく