13.切迫早産

 

28週に入ったころ、奥さんのおなかの張りが前より頻回になっていました。ヨガのせいかな?動きすぎかな?もうちょっと様子見て、続くようだったら病院行こうかな…なんて言っていたある日の夜。

 

「あっ!」

 

トイレに入った奥さんの大きな声。ナプキンには少量ながら鮮血。電話して、すぐに病院に向かいました。

 

検査のために案内されたのは、ココが産まれた産科病棟の、あの陣痛室でした。

隣にはココと奥さんが陣痛に耐えていた、あのベッド。心の準備もできないままに、記憶のかさぶたがベリベリと剥がされて行く。そして目の前にはまた別の問題が発生している。

 

検査の結果を見ながら当直の先生が説明してくれました。

「やっぱりおなかの張りが強いですね。出血もそのせいだと思います。いわゆる切迫早産です。子宮口は開いていないので、すぐにどうこうという話ではありませんし、赤ちゃんも元気ですが、このまま入院して張り止めの点滴はしたほうがいいですね。退院は経過を見てになりますが、前回のこともあるので…そのままお産までということもあり得ますね」

 

落ち込んだり、感傷に浸っている余裕はありませんでした。奥さんを残して、急いで入院に必要な着替えやヘパリン注射を取りに帰りました。病院に戻ったときには点滴はもう始まっていて、奥さんは落ち着いた様子で、点滴してると着替えるのが大変なんだよね、なんて笑っていた。努めて平静に。ボクを動揺させないように。

 

一人病院を後にするときには、日付も変わってもう真夜中でした。

正直、疲れ果てていた。不安で、寂しくて、やるせなくてどうしようもなかった。そんな帰りの車中、シャッフル再生のスマホから流れてきたのは、ルイ・アームストロングの「What a wonderful world」でした。

 

世界の幸せを歌うこの歌には、戦争や根強い人種差別といった暗い時代背景がある。苦しいことがあるからこそ、幸せを感じられる。確かにそりゃそうかもしれない。でもわざわざ苦しい思いなんて誰もしたくないし、それにボクたちはもう今まで十分苦しんだはずだ。このまま順調に行ってくれたって、ボクたちは十分幸せを感じられるのに。

 

What a wonderful world.

なんてすばらしい世界。

 

大きな大きな、ため息が出ました。

 

 

 

 

入院生活」へつづく

 

 


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